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横浜地方裁判所 昭和58年(ワ)1422号 判決

原告

日産コンクリート工業こと

山木芳春こと

宋桓植

右訴訟代理人弁護士

森田昌昭

右訴訟復代理人弁護士

藤重由美子

右訴訟代理人弁護士

神部範生

右訴訟復代理人弁護士

田多井宜和

被告

仁科信盛

右訴訟代理人弁護士

川島仟太郎

被告

右代表者法務大臣

嶋崎均

右指定代理人

山﨑まさよ

外四名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告に対し、被告仁科信盛は金二二八万八〇〇〇円、被告国は金四〇七万円及びこれに対する被告仁科信盛は昭和五八年三月三日から、被告国は同年七月一九日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  被告国に対する請求について仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

(被告仁科信盛)

主文同旨

(被告国)

1 主文同旨

2 仮執行免脱宣言

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  本件強制執行の実施

(一) 被告仁科は、原告が同被告、被告が訴外日産コンクリート工業株式会社(代表者原告)間の横浜地方裁判所昭和五三年(ワ)第一五一〇号土地明渡等請求事件の昭和五三年一二月一三日成立の調停調書(同裁判所同年(ノ)第三七号)の執行力ある債務名義の正本(調停条項、日産コンクリート工業株式会社が被告仁科に対し、後記本件土地を昭和五六年一二月末日限り明渡す。)に基づき、同裁判所同年(ロ)第一五〇号(以下「本件執行事件」という。)をもつて、昭和五七年九月二八日、債務者日産コンクリート工業株式会社承継人本件原告に対し、本件土地(海老名市上績字向河原二五〇七番畑・現況宅地四九五平方メートルのうち、三三〇・六六平方メートル、以下同じ。)につき、明渡の強制執行(以下「本件強制執行」という。)をなした。

(二) 本件強制執行は、横浜地方裁判所所属の保田剛史執行官(以下「保田執行官」という。)がこれを担当し、債権者である被告仁科側は、代理人の本多三郎弁護士が右執行に立会したが、債務者である原告は立会しなかつた。

(三) 本件強制執行当時、本件土地上には別紙物件目録記載の物件(以下「本件動産」という。)が存したが、本件強制執行に際し、保田執行官は、本件動産をユンボー(パワーショベル)によつてダンプカーに積載し、本件土地から相模原市新磯野字磯部出口一一〇番所在の廃品回収業業鄭末順方材料置場に搬送移転し、同所でこれを保管した。

2  本件強制執行の結果

本件強制執行により、本件動産のうち別紙物件目録番号1、4、6ないし8の動産には修理を要する毀損が生じ、同目録番号2、3、5の動産には修理不能の変形が生じた。

3  本件強制執行の違法

(一) 本件動産は、高価な鉄骨機械等であるから、その移転に際しての積み降し、その後の保管に際しては、債権者及び執行官は、右動産に毀損変形を生じさせないよう慎重に取り扱うべき注意義務がある。

(二)しかるに、被告仁科は右義務を怠り、本件強制執行に先だち古鉄業者の鄭末順及びその弟に通常スクラップの如き資材の積込のために用いるユンボーとダンプカーを準備させたうえ、保田執行官にユンボーを使用して本件動産をダンプカーに積み、移転するよう指示した。

(三) 保田執行官は右義務を怠り、原告の立会がないのを奇貨として被告仁科の右指示に漫然と従い、右鄭らをしてユンボーによつて本件動産を無造作にダンプカーに積み上げ、同人方まで運搬し、ダンプカーの操作により地上に落下させこれを毀損、変形せしめた。

4  原告の損害

本件動産は原告の所有であるところ、原告は違法な本件強制執行により生じた前記毀損動産の修理費等相当の損害を蒙つた。その損害及び内容は別紙物件目録記載のとおりである。

5  被告らの責任

被告仁科は、民法七〇九条に基づき、被告国は、違法な保田執行官の職務行為につき国賠法一条一項に基づきそれぞれ原告が蒙つた前記損害を賠償すべき義務がある。

6  結語

よつて、原告は被告らに対し不法行為に基づく損害賠償として被告国に対しては金四〇七万円、被告仁科に対してはその内金二二八万八〇〇〇円及びこれらに対するいずれも本訴状送達の日の翌日である被告仁科については昭和五八年三月三日、被告国については同年七月一九日からそれぞれ右各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告らの認否

1  請求原因1の事実を認める。

2  同2の事実を否認する。

3  同3の事実(被告仁科は同(一)及び(二)につき、被告国は(一)及び(三)につき)を否認する。本件動産は、本件強制執行当時既にスクラップ化していたもので無価値に等しいものであつた。

4  同4を否認する(ただし被告仁科につき本件動産が原告の所有であることを認める。)。

5  同5を争う。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1の(一)ないし(三)(本件強制執行の実施)の事実は、当事者間に争いがない。

二そこで請求原因2(本件強制執行の結果)及び同3(本件強制執行の違法)の事実について判断する。

1  〈証拠〉によれば以下の事実を認めることができ、右認定に抵触する証人池田政忠、同土屋萬里、原告の各供述部分は前掲各証拠に照らしてにわかに措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠は存しない。

(一)  被告仁科は、請求原因1の(二)記載の前記調停条項で定められた明渡期限の昭和五六年一二月末日を経過しても、日産コンクリート工業株式会社が本件土地の明渡しをしないので、昭和五七年五月一日、同社に対し、横浜地方裁判所昭和五七年(執ロ)第九二号をもつて本件土地の明渡執行に着手しようとしたところ、当時同社清算人で、また、原告の代理人として執行に立会した山木茂美が、明渡しを同年九月ころまで猶予してほしい旨申出、これに対し債権者代理人の本多弁護士は同年五月末までしか明渡を猶予できないとしてこれを拒んだが、結局、担当の川越良二執行官は、次回執行期日を六月二日午後一時と指定し、執行自体の着手には至らなかつたこと、ところが同月一一日付で原告から、山木茂美は日産コンクリート工業株式会社とは何んら関係なく、本件土地は原告個人が賃借し地代も支払つており、同地上の本件動産等は原告個人の所有物である旨等を理由として右執行について異議の申立てがなされたこと、

(二)  そこで被告仁科は、原告に対する承継執行文を得て別に本件執行事件の申立てをなし、右承継執行文謄本等が翌八月一日、原告に送達されたので(右は前記山木茂美が事務員としてこれを受領し、これについては原告からとくに異議の申立等がなされてはいないこと。)、担当の保田執行官は、同月一七日、債権者・被告仁科の代理人の本多弁護士の立会のもとに執行に着手すべく本件土地に臨場したこと、保田執行官は、執行に先立ち当日右執行に立会を求めるべく原告宅を訪ねたが原告は不在であり、また本件土地の状況は、同地上の通路側の三分の二ぐらいの範囲に本件動産をはじめ・種々のスクラップ状の動産が二、三メートルの高さに山積みされ、その上部を覆つていたカバーも破損していて直ちには執行を遂げ難い状態にあつたため、同執行官は、執行に一旦着手はしたが、約三〇分程度でこれを中止したこと、そして次回の執行日を近日中になすとし、その執行にあたつての右動産の搬出方法は本多弁護士に一任することとし、同弁護士に対し、車両及び作業員の準備を求め、併せて右動産の価値を評価できる人の立会を求めたこと、

(三)  翌九月二八日に第二回目の執行日が指定され、本多弁護士は当日の朝、前記動産を評価できる人として、金井仁浩を同行して臨場したこと(なお、被告仁科は一旦臨場したものの病気のためすぐに帰宅したこと。)、そして、午前八時四〇分ころ、保田執行官と本多弁護士は本件土地から徒歩約三分の距離にある原告宅を訪ね、原告に対し、本件強制執行への立会を求めたが、原告は所用を理由に立会を拒絶し、代りに代理人を立会わせると述べ、その際、保田執行官が本件土地上にある動産のうちで原告において引き取るものがあるか否かを尋ねたところ、原告はコンクリート型枠を引き取つてもよい旨述べていたこと、

(四)  保田執行官は原告の立会なしに午前九時三分から本件強制執行に着手したが、本件土地上における動産の保存状況は、前月一七日の第一回目の執行時と同じく、特に変化はなく、本件動産のうちコンクリートブロックを除き、鉄材等は大部分が錆びていたので保田執行官及び金井仁浩は、これらをいずれもスクラップ状態にあるものと評価したこと、なお保田執行官が近隣の者に現地の状況を尋ねたところ本件動産は、三年くらい前から野積されているとのことであつたこと、

(五)  右状況の下、保田執行官は、本多弁護士が同行して来た約一〇人の作業員を使つて、用意していた六、七台のトラックとユンボー(パワーショベル)一台を用いて本件土地上の本件動産の除去搬送作業に取りかからせたこと、右作業の具体的方法は、右動産にワイヤーをかけユンボーのアームの先の爪にそのワイヤーを掛けて吊り上げ、順次トラックの荷台に積載していく手順によるものであり、コンクリートブロックのようなワイヤーのかけにくい物等は手で運んだり、あるいは板状の物の上に載せて板ごとワイヤーで吊り上げたりしてトラックに積載したこと、そして保田執行官は、右動産のトラックの荷台への積載の際、金井仁浩に順次その名称を呼び上げさせ物件とその数を確認させ、さらに、また原告が引き取りの意向を示したコンクリート型枠については、特に一枚一枚作業員にその数を数えさせ、それに基づきその旨執行調書を作成したこと、

(六)  そして保田執行官は、トラックに本件動産を積み終えた段階で、本件土地上に何らの動産も残つていないことを確認し、本件土地の明渡執行を同日午後五時四六分に終え、トラックに積載された本件動産は、腐食して使用に耐えないと思料された材木等は廃棄し、残余は本多弁護士の指示で前記保管場所に搬送されたこと、

また、原告が引取りの意向を示したコンクリート型枠は、右作業中原告宅へ運ぶため作業員が原告宅を見分に行つたが、同所が狭くてユンボーが入らないので、右型枠をトラックから降すことができないため、他の動産と共に前記保管場所に搬送されたこと、

(七)  なお原告は右執行中も不在で、原告が立ち会わせると言つていた代理人も本件強制執行中、遂に現われなかつたこと、本件動産は、その後同年一二月二五日 原告に引き渡されたこと、

(八)  原告が本件強制執行後の昭和五八年一〇月三〇日及び昭和五九年一月七日に撮影した本件動産の写真によれば、本件動産のうちの鉄骨、機械等のなかには分解された状態にあるもの、幾分曲折の存するもの、コンクリートブロックのうちには周囲が欠損しているものが存すること、

2 ところで強制執行手続は、すでに裁判上確定した権利ないし法律関係の可及的速やかな回復ないし実現を目的とするものであるから、かかる目的を実現するための強制執行は自ずから高度に能率的かつ迅速的であることが要請されるところ、強制執行に当り如何なる執行方法を採用するかは、社会通念上著しく合理性を欠くと認められない限り、当該執行の対象物件は性質価値及びこれに対する所有者の態度、当該執行により債務者に与える損失の程度、執行に要する費用、時間等を総合的勘案して決すべき執行官の合理的な裁量に委ねられているものと解せられる。

これを本件についてみると、本件動産は本件強制執行当時までに長期間野積みされてあり、右執行に際しコンクリート型枠を除き原告はその引取りの意向を示さず、また右執行にも立会せず、コンクリートブロックを除き他は大部分が錆び付いている等の状況にあり、債権者の同道した業者においてもこれらをスクラップ状態であるとしていたものであるから、本件強制執行を担当した保田執行官が本件動産をスクラップと判断したこと、かかる判断のもとで、本件動産の多くが鉄製の建設機械ないし解体建物用材で高価かつ毀損し易いものとは考えられないものであるうえに、右執行には、執行官の勧めにもかかわらず原告は立会せず、しかも執行の方法について何ら具体的特別な指示も与えていなかつたこと等の事情から、保田執行官が、債権者・被告仁科側の意向をも踏えて本件強制執行にあたり、前記のように本件動産をワイヤー、ユンボー等を使用してトラックに積載して除去搬送する方法を採用したことは、執行官として相当な判断に基づく執行方法であつて、その裁量に何ら逸脱があるとは認められないから、これをもつて違法不当と非難することは当を得ないものというべきである。

したがつて前記コンクリートブロック等に存する幾つかの曲折等の毀損部分が仮に本件強制執行の結果生じた毀損であつたとしても保田執行官に本件強制執行に当り、注意義務違反があつたものとは認められない。

また保田執行官の採つた右本件強制執行方法は、債権者である被告仁科の意向をも踏えたものではあるが、保田執行官の右執行方法が相当である以上、それを指示した被告仁科にも本件強制執行について原告主張のような注意義務違反があるとは認め難い。

三結論

以上によれば原告の本訴各請求は、その余の点につき判断するまでもなくいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官山口和男 裁判官櫻井登美雄 裁判官小林元二は転補につき署名押印できない。裁判長裁判官山口和男)

物件目録

番号

名称

数量

修理費

修理不能による損害

毀損・変形の程度

1

骨材計量器(800粁台)

一台

七〇〇、〇〇〇

修理を要する

2

ブロックマシン骨材給材器

一台

二五〇、〇〇〇

ピストン破損修理不能

3

軽量鉄骨梁(50㎝×4m)

一四個

八四〇、〇〇〇

修理不能

4

C型チャンネル桁(10㎝×7m)

三三個

一、九八〇、〇〇〇

全部破損使用不能

5

コンクリートブロック

三〇〇個

九〇、〇〇〇

使用不能

6

コンベアー(5m)

二台

六〇、〇〇〇

修理を要する

7

コンベアー(7m)

一台

三〇、〇〇〇

修理を要する

8

軽量鉄骨組合柱

一二本

一二〇、〇〇〇

修理を要する

合計

二、八九〇、〇〇〇

一、一八〇、〇〇〇

総合計

金四、〇七〇、〇〇〇円

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